お坊さんのトリセツ Vol.7
大和 法深寺 清水御住職
Q なぜお坊さんになられたんでしょうか。
昭和22年に小田原の裏町という所で生まれたんですが、昭和27年5歳の時にその裏町のお寺の前にあった馬屋さんの馬に蹴られて大けがをしたんです。その当時はまだ馬も交通手段の一つとして活躍していた時代ですから、その馬屋さんにはいつも5頭くらいの馬が繋がれていました。そこで私が悪さをしたんでしょうね、跳ね上げた後ろ足が私の額に当たり、頭蓋骨骨折して大変な惨状だったようです。お医者さんに連れていくも見放されるような状況で、父親は横浜のお寺でお勤めの最中でしたから母親が一生懸命に祈り、どうにか一命を取り留める事ができました。
そのような経験から、助けていただいたこの命は人助けのためにささげようと5歳ながらにそういう気持ちになっていたんですね。確かに親はお坊さんでしたが、お坊さんを継がなければならないというプレッシャーなど全くなく、自発的に「させていただきたい」という思いでお坊さんになり、今に至っております。
Q ご住職はブラジルへ赴任されていたとお伺いしました。
そうなんです。いろいろな関東のお寺をご奉公で回らせていただく中で、タイミングがあり結婚したんですが、結婚と同時に同じ宗派のブラジルのお寺へ派遣が決まったんですね。ただ、観光ビザはすぐに発行されるんですが、僧侶や学校の先生などが必要とするテンポラリービザ(一時滞在ビザ)はなかなか発行されないんですね。ずっと発行待ちの状況だったので、半ばあきらめて車も新車を買って、子供もできて、お寺を新しく改修したりして、、、、としているうちに突然ビザが下りてしまったんです。慌てて折角買った新車を売って、9か月の子連れて30時間位かけてブラジルに向かいました。
赴任は1期3年なんですが、私は2期行ってまして、最初の3年の赴任先はモジ・ダス・クルーゼスにある隆昌寺というお寺でした。そこで2人目の男の子を授かり、その後帰国して2期目はロンドリーナにある本法寺というお寺に赴任することになりましたんですね。そこで3人目の女の子を授かりました。もう一期伸びていたらもう一人増えていたかもしれませんね(笑)。
Q ご住職になってうれしかったことって何でしょうか。
やっぱり御信者さんが御利益頂いて喜ぶ姿っていうのはうれしいですね。その結果御信心を前向きにするようになり、また人にも広めようという姿につながる。これほどうれしいことはありません。また、最近では後継者ができたこともうれしいことです。御信者さんが増える事は横の広がりですが、後継者というのは縦の広がりです。ありがたいことに清康師(清水ご住職のご子息)が今年12月に住職に就任します。この縦の広がりが持てたということはうれしいことですね。
Q ご住職のテンションの上がる食べ物ってなんでしょうか。
やっぱり自作のシュラスコですね。ブラジル赴任の時に得たノウハウを全部日本に持ってきていまして、年に1回くらいは作るんです。牛バラブロックを5キロ買ってきて、あら塩をまぶしてアルミホイルにくるむんです。それを遠火で2,3時間蒸し焼きにするんですよ。そうすると中から肉汁が出てくる。でまた塩が中にしみこむというのを繰り返して、頃合いを見て今度はアルミホイルを外して直火で焼くんです。ナイフのようなもので削ぎながら、焼きながら食べるんですが、皆さんがおいしいと言って喜んでくれるその顔がまたテンションを上げてくれますね(笑)。
Q 作るうえでは機材も必要になると思うのですが。
そうですね。日本にはなかなか大きなブロック肉を刺す串もないので、自作しました。大テントのペグを叩いて平たくして、紐を通す所に木で作った取っ手をつけて、これを4本作りました。あとは、肉をそぐのにはランボーが持っているような蛮刀(ばんとう)を使いますね。
Q ところでお坊さんはお肉は食べてもいいのでしょうか。
昔は一般的にお坊さんは「肉食妻帯(にくじきさいたい)」というのはご法度だったんですね。でも、当宗はそもそも山の上に上って座禅をするような宗派じゃない、街中にでていろいろな人の話を聞いて、一緒に祈りなさいと教えていただくんです。そのためにはしっかりとした体作りが必要で、お肉であろうとお魚であろうとOKということですね。
Q ご住職の座右の銘をお伺いできますか。
「悉有仏性(しつうぶっしょう)」ですね。つまり生きとし生けるものはみな仏性(仏になれる性質)がある。人間を含む動物も植物もその仏性を持っている。だからこそ他の命を大事にしなさいと教えていただくんですね。またそういう思いがあれば、反対に自分の命も大事にすることにつながる。食べ物を乱獲してはいけないし、自分の欲のために他国に侵略して殺すようなことがあっては絶対にいけない。これは仏教の根本的な教えですね。
Q 最後に皆さんにメッセージをお願いします。
私たちのモットーは「浄仏国土」なんです。今の世の中は、人間の煩悩や欲によっていろいろな争いや問題を抱えている。これを変えていくためには、政治の力でも、行政の力だけでもダメなんです。人間の本質を変えていかなければだめだと思うんですね。「浄仏国土」を今風の言葉でいうなれば、「人類の世界平和」というところでしょうか。お互いの生き方を認めていきながら、みんなが幸せになろうよと。お寺に来て、法話を聞いていただき、少しでもそのようなことを考えていただけたらありがたいですね。