お坊さんのトリセツ Vol.8
横浜 本立寺 亀井御住職
Q なぜご住職はお坊さんになったのでしょうか。
やっぱり私の場合はお寺に生まれたというのが第一の理由でしょうか。最初はならないと反発はしていたのですが、縁というか、巡り巡って得度をさせていただくこととなりました。お坊さんになった当初は何も分からないまま過ごしていたのですが、御信者さんの姿や師匠である父親の姿を見て、だんだんとお坊さんとして成長したというところですね。
Q 得度されたのはおいくつでしたか。
18歳、大学一年生の時です。
Q 18歳までは普通の学生として過ごしていたということでしょうか。
そうですね。学生時代は陸上の短距離にも打ち込み、勉強はまじめにはしていませんでしたがクラブ活動はまじめにやっていましたね。全国大会へ行った経験もありましたが、高校3年生の時にケガをしてしまって挫折をしてしまいました。
Q 就職活動などはされなかったのでしょうか。
その頃は他の選択肢を考える余裕もありませんでした。今は会社に入った後に転職をしたりすることもよくあると思いますが、私たちの年代は一つの会社に入ったらリタイアするまで自分の人生を全うするという時代でしたから、私もお坊さんになったからにはその道を一所懸命に取り組む決意でした。
Q お坊さんになっていないとすればどんな職業につかれていたと思いますか。
あまり考えたことがないですね。お坊さんといっても、一般のお坊さんと、佛立宗のお坊さんとでは少しイメージが違うかもしれないですね。一般のお坊さんは、葬式など亡くなった方の供養をすることがメインかも知れませんが、佛立宗のお坊さんは仏教を弘める事に重きをおきます。待ちの姿勢ではなくて、仏教を弘める為にはできることはなんでもさせていただこうと。だから忙しいんですね。そういう日常ですから、第二の人生でどんな職業に就きたいとかは考えたこともないですね。
Q お坊さんになってよかったところってどんなところでしょうか。
楽しいところというのはそうありませんね(笑)。私が住職を継承する際の式典で、「周りからみると、住職はいいだろうと思われることもあるが、そんなことはない。次から次へといろいろな事が起こってくる。そういう事に対して向き合う覚悟を持つのが住職だ」と祝辞を頂いたんですね。まさしくその通りでした。でもいろいろなことに向き合う職業だからこそ、やりがいもあるんです。
Q お休みはどう過ごされていますでしょうか。
そうですね。学生時代に陸上やっていたのもあるのかもしれませんが、マグロと一緒で常に動いていないと体が酸欠になってしまうんですね(笑)。なので、お休みの日も普段できないことをいろいろこなしたりしています。ただ、その中でも本を読んだりする機会は多いかもしれません。私たちお坊さんは世間を知る機会がすくないので、知ろうと思ったらやっぱり本などの活字を通じて勉強したりしなくてはいけないんです。そのような「吸収する」ということを疎かにはしたくないですよね。
Q 座右の銘があれば教えてください。
「あきらめない」ということですかね。いろいろ工夫するということが大切だと思うんです。10の内、2でも3でもできるようになれば、そのあと4、5が見えてくるんですね。それをやらないで2,3であきらめていたらその後の進歩がないんです。だからこそあきらめずに取り組むというのが大切だと思いますね。陸上をやっていた頃は若かったので「ただ走っていれば」という考えだったのですが、もっと工夫をして練習に取り組んでいれば成長したんじゃないかなと、今思えば惜しいことをしたなと思いますね。
Q お寺の歴史についてお伺いできますか。
この本立寺は麻布にある光隆寺というお寺の末寺なんですね。明治41年頃に光隆寺の御信者さんで横浜に住んでいらっしゃる方々が集まり親会場として設立したんですね。当時は横浜の坂東橋近くの吉田町に設立されましたが、大正8年に発生した横浜の大火で焼失してしまったんです。その後、今の南区堀ノ内からほど近い場所に新たに親会場を再建しました。昭和11年に麻布 光隆寺の本堂の建て替えをきっかけに、従来の本堂を横浜に移そうという話になり、今の位置に麻布 光隆寺の本堂共に移ってまいりました。
Q お寺の自慢があれば教えてください。
私が小さいころからお世話になっている御信者さんも今は少なくなってさみしい限りではあるのですが、古くからある御本尊を護持し、お寺を護持していただいている御信者さんですね。人が集まれば様々な人間関係もありますが、それでも皆さま和気あいあいとお寺を守っていただいている。私が普段は麻布のお寺にいることが多いものですから、ふつうは心配にもなるのでしょうか全然そんなことはなく、安心して皆様にお任せすることができる。そういう御信者さんがお寺の自慢でしょうね。
Q 最後に皆さんにメッセージがあればお願いします。
コロナ禍でも本立寺はお寺を閉めなかったんです。お寺って人間社会の最後の砦だと思うのです。なので、難しい環境であったとしてもできる限り開けておきたいと。そういうことですから、本当に困ったときにはどうぞお寺に訪ねてきてください。悩んでいらっしゃる方はなかなか外に出ることも難しいのかもしれませんが、お寺という選択肢を持っていただいて、困ったときには訪ねてきていただければありがたいと思います。